三重Hでのラストダンス。走り抜いた“ミスターヒート”が残した『魂と感謝と残留』
チーム・協会
三重Hでのラストダンス。走り抜いた“ミスターヒート”が残した『魂と感謝と残留』
三重ホンダヒート 小林亮太選手
【🄫ジャパンラグビー リーグワン】
5月30日に行われたD1/D2入替戦の第2戦で、三重ホンダヒート(以下、三重H)は花園近鉄ライナーズを相手に29対19と勝利。ホストスタジアムでディビジョン1残留を決めた。
第1戦で得たリードはわずか4点。さらに、この試合は前半9分にトライを許し、アドバンテージを失う苦しい立ち上がりだった。加えて、前半36分にマーク・アボット、後半13分にフランコ・モスタートがイエローカードを提示され、計20分間を14人で戦う展開に。
だが、その数的不利の時間帯に三重Hは逆にトライを奪い、タフな守備で失点を防いだ。これが流れを大きく引き寄せた。
「穴を埋めるために、全員でハードワークしました」と語ったのは、三重Hで11シーズンを過ごしてきた小林亮太。数的不利時にはロックに移り、仲間の不在をカバーした。「慣れない役割で少し迷惑を掛けてしまいました。それが終わったと思ったら、もう1回ありましたしね(笑)。でも、みんなが本当に頑張ってくれました。フロントローを含め、仲間に感謝したいです」と振り返った。
小林の戦う姿勢は、名選手たちからも称賛を受けている。レメキ ロマノ ラヴァは「彼の粘り強さを見てほしい」と語り、パブロ・マテーラは「小林はウォーリアー(戦士)」と評した。まさに三重Hを象徴する男は、この試合でもフル出場で勝利に貢献。そして、平日ながら3,306人のファンが詰め掛けたスタンドを見て、胸に熱い思いが込み上げていた。
「金曜夜の試合でしたし、仕事を終えてから会場に来て声援を送ってくださった方もたくさんいらっしゃいました。勝利を届けられてよかったです」。そう語る小林は、続けてこう口にする。「僕は11年前にここに来ました。そのころからずっと応援してくださっている方もいますし、ファンの数が増えていく様子を肌で感じてきました。本当にありがたい。その一言に尽きます」
D1残留を決めた翌日、三重Hは今季限りでの退団選手を発表。その中には小林の名前もあった。
多くのファンに愛された“ミスターヒート”は、最後の舞台でも変わらぬスタイルで、粘り強く、泥臭く駆け抜けた。その魂は、これからも三重Hの中に確かに生き続けていく。
【🄫ジャパンラグビー リーグワン】
三重ホンダヒート キアラン・クローリー ヘッドコーチ
「結果についてはとてもハッピーな気持ちでいっぱいです。花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)もとてもいいゲームをしてきましたが、前半は自分たちがミスをしたことで相手が(自分たちに)プレッシャーを掛けられる状況を作ってしまいました。また、イエローカードが2枚提示されたことや、後半にはキックゲームがうまくいかなかった部分もありました。しかし、最終的には選手が良い部分を積み重ねて勝利までつなげてくれました。その点についてはとても誇りに思います」
──後半の立ち上がりから試合の流れが変わったように見えましたが、ハーフタイムの指示はどんなものでしたか?
「精度についての話をしました。前半のキックオフでボールを落としてしまった場面から10分間、われわれはプレッシャーを受ける立場になりました。また、ターンオーバーのあとも10分間ほどプレッシャーを受け続けました。後半に入る際には、われわれがやることの精度を突き詰めていこうという話をして、そのスタートは良かったと思います。ただ、後半にそれを続けることができなかったという点については少し残念です。しかしながら、テンポとスピードを上げてプレーできたことは前向きな部分です」
──後半のかなり早い時間に6名の入替を行いました。そこは選手層に対する自信のようなものがあったのでしょうか。
「今日について言えば、23人のうち22人しか使うことはできない状態だったのですが、ベンチワークについては自信がありました。今季はとてもけがが多いシーズンになってしまって、本来はスタメンで使いたい選手を8名使うことができない状態になりました。ただ、このようなシチュエーションであっても、私は選手に対して自信をもって使うようにしています」
三重ホンダヒート パブロ・マテーラ ゲームキャプテン
「私も結果にはとてもハッピーです。われわれはとても重要な2週間を過ごしてきました。花園Lさんは7連勝をしてこの入替戦に臨んできましたし、とても強いチームだということ、自信をもってくるだろうということは理解していました。試合ではイエローカードで自分たちから難しい状況を作ってしまったんですが、最終的には勝利まで持ち込めました。今日はその喜びを分かち合いたい。そのあとはしっかり休んで、来季さらに強くなって帰ってきたいです」
──2枚のイエローカードにより20分間を14人で戦う難しい状況になりましたが、そこで失点はゼロでした。どのような解決策を施したのでしょうか。
「とても難しい20分でした。相手にボールを与え、アタックのチャンスを作らせていました。また、(イエローカードで一時退場した)フランコ(・モスタート)はラインアウトリーダーですし、重要な位置の選手が(一時)退場になっていました。相手もその時間帯にはラインアウトからモールを作ってきたり、エッジ(タッチライン際)から攻めてきたり、持っているもののすべてを出してきました。ただ、相手よりもわれわれが落ち着いてハードワークをし続けて、失点なく耐え抜くことができました」
「正直に言えば、あまり来季のことは考えていません。この2週間で頭にあったのは『鈴鹿(をホストエリアとして戦う)での最後のシーズンをディビジョン2でプレーしたくない』ということだけ。われわれはD1にふさわしいチームだと思っています。もちろん理想的なスピードで成長していないかもしれませんが、徐々に強くなっています。個人的にはこのあと国際試合(アルゼンチン代表)があるので、まずはそこに集中します。今季は(公式戦で)32年ほど勝てていなかったトヨタヴェルブリッツを破ったり、昨季よりも白星の数が増えたりと、成長を実感しているので、来季をとても楽しみにしています」
【🄫ジャパンラグビー リーグワン】
「今日はありがとうございました。ほとんどの時間はうまくゲームをコントロールすることができたんですが、20分間うまくいかなかったところがあり、このようなスコアになったのだと思います。力の差はあまりないと思いますが、結果はこうなってしまったので、もう1段階レベルアップして、来季は再びD1を目指してチャレンジしていきたいです」
──1戦目での4点差での敗北という結果をもってこの試合に臨みましたが、どのようなことを想定していましたか?
「1戦目は前半戦で、今日は後半戦が始まったというイメージで臨んでいました。選手たちも、負けているというよりは、まずは得点を取り返してゼロからスタートしよう、という感覚で戦っていたと思います。それについては、そのとおりに具現化してくれたと感じています」
──あと一歩、昇格まで届きませんでしたが、その原因をどのように感じていますか?
「今季はミスを少なくして、ペナルティを減らして、早くゲームに没頭して入っていくことをターゲットにしてやってきました。ただ、やはりペナルティをしてしまうことや、一番大事なところでミスをしてしまうことなどが、最後の試合でも出てしまった。そのような部分を、今度は出ないようにしたいですし、出たとしても『いいミスで終わる』ようにできれば、必ず上(D1)で暴れられるようなチームになれると思います」
──フロントローの入替は後半36分でした。かなり引っ張った印象ですが、どのようなゲームプランがあったのでしょうか。
「前回は入替のあとすぐにトライが決まりましたが、ラタ(・タンギマナ)選手のディフェンスやキャリーは(相手の)脅威です。一度キャリーしてミスもしましたが、脅威になるのは事実ですので、そのバランスを考えました。岡本(慎太郎)もキャリーして(ボールを)落としはしましたが、攻撃のスピードはありますし、最後まで我慢して引っ張ろうと思っていました」
──熱い応援をしてくれたパッセンジャー(花園Lファンの愛称)にメッセージをお願いします。
「毎回熱い応援をしてくださってありがとうございます。どこのグラウンドに行っても応援に来ていただいて、非常に大きな力になりましたし、ありがたかったです。今回負けはしましたが、引き続き同じようにライナーズを愛していただければうれしく思います」
花園近鉄ライナーズ 野中翔平バイスゲームキャプテン
「1年間応援していただきありがとうございました。プロセスにこだわって、チーム一丸となって取り組んできました。結果ではない部分にこだわってやってきましたし、そうすれば最終的に結果が出ると信じていましたが、勝負の世界においての敗北という結果でした。いいところもたくさんありましたが、それ以上に足りないところがあった。1年でD1に帰るという目標は叶いませんでした。来季こそはという強い気持ちを持って、残るメンバーとともに勝てるチームにしていきたいです」
──相手よりも人数が多い時間が20分間ありましたが、そこで点を取れなかったことが響いたように思います。ピッチの中ではどのような意識で戦っていましたか?
「相手のフォワードの選手が外に出ている状況だったので、それを優位に運んでいこうという意識はありました。ただそれとは裏腹に、自分たちの単純なミスなどで流れをつかみ切れませんでした」
──わずかにD1昇格までたどり着けなかった要因は何だと思いますか?
「毎回の練習などで作り上げていくものだと思います。厳しさであったり、クオリティであったり……。それらを見逃してしまった瞬間があるのかなと感じますし、リーダーの一人として責任もあります。そのようなチームの根幹をもう一度作る必要がありますし、一人ひとりが高い意識を持つことが大事です」
──1シーズンでD1に戻れませんでしたが、反省点としては何がありますか。
「いますぐに答えるのは難しいです。グラウンドの内外でいろいろな要因があると思います。さまざまなものが重なって良いチームになるものですし、それが勝ちにつながるのだと思います。しっかりと見つめ直して、来季が始まる前に(その問いに)答えられるようにしたいです」
──シーズンを終えてファンにメッセージをお願いします。
「『申し訳ない』という気持ちです。ありがとうという言葉よりも、勝ちを届けたかった。その瞬間を一緒に味わいたかった。それを成し遂げるためにここに来ました。その責任を果たせなかったことを申し訳なく思っています。だから、引き続き応援してほしいなどということは言えませんが、今季以上の努力をし続けて、またみなさんに来ていただけるように継続していきたいです」