プロ野球の“トレード巧者”はどの球団? データで見えるトレードの損得
12球団の“トレード収支”をWARで算出
このように個々のトレードでの損得はよく語られるが、それらをまとめて球団ごとに検証した結果はあまり見ない。いったいどこの球団がトレード巧者なのだろうか。今回はその疑問を、過去のデータをもとに探ってみたい。
今回はトレードの巧拙を獲得・放出した選手の移籍後におけるパフォーマンス収支で測りたい。選手のパフォーマンスはWAR(Wins Above Replacement)で測る。WARとは選手の打撃や守備、走塁、投球による貢献度を勝利数の単位で表現した指標で、例えばWAR3.0の選手は一般的な控えレベルの選手と比べてチームの勝利を3つ増やしたと解釈できる。獲得・放出した選手がどれだけ勝利に貢献していたかでトレードの巧拙を測るのだ。
具体例を見てみよう。例えば2018年に成立した、ロッテが岡大海を、日本ハムが藤岡貴裕を獲得したトレードを考える。移籍後岡は主力に成長し、移籍後の通算WAR10.4という活躍を見せている。これだけ見ればロッテの岡獲得は大成功だ。
ただ当然、ロッテは岡をノーコストで獲得したわけではない。もし藤岡が岡以上の活躍を見せれば、トレード全体では損をしたことになる。そこで、このトレードの“収支”を計算してみると、岡がロッテ移籍後記録したWARは10.4、これに対して藤岡は0.0だった。これを差し引きすると、ロッテの収支は10.4。逆に日本ハムから見れば-10.4だ。ロッテからすれば会心、日本ハムからすれば痛恨のトレードだったと言えるだろう。
この例のように、今回の分析では2014年以降に成立したトレードで各球団が「獲得した選手」と「放出した選手」が移籍後にどれだけのWARを積み上げたかを集計。各球団の“収支”を算出し、最もトレードが上手いのはどの球団かを検証した。
トレード収支1位は西武、一方最下位は?
西武に最大の利益をもたらしたのは2022年オフに「呼び戻された」佐藤龍世だ。佐藤は2021年にトレードで一度日本ハムへ移籍したが、2022年に再度山田遥楓とのトレードで西武に「出戻り」。復帰後は2年連続で90試合以上に出場し、合計WAR4.2を記録した。対価の山田は0.2だったため、西武の収支はWAR4.0。佐藤の出戻りが西武に大きな利益をもたらしたのは間違いない。
続く2位は5.4を記録したDeNAだ。獲得選手の中で最大のWARを記録したのはエドウィン・エスコバー。日本ハム時代は外国人枠の関係で1軍登板が限られていたエスコバーだが、移籍が大きな転機となった。2017年7月に黒羽根利規とのトレードでDeNAに移籍すると、2023年に退団するまで381試合に登板し救援陣を支えた。エスコバーは移籍後WAR3.0、黒羽根は-0.1を記録したため、このトレードによるDeNAの収支はWAR3.1。他球団の余剰戦力を獲得し、大きな利益を得ることに成功した。
3位は4.4を記録したソフトバンク。近年は他球団へ移籍した選手の活躍が目立つが、ことトレードに限れば12球団屈指の巧者ぶりを見せている。
移籍後最大のWARを記録したのは川島慶三だ。川島は2014年7月に新垣渚、山中浩史とのトレードで日高亮とともにヤクルトからソフトバンクへ加入。対左投手のスタメンや代打で息の長い活躍を続けた。川島は退団までにWAR6.1を記録。ともに移籍した日高はWAR0.0だったが、対価の新垣は0.3、山中は0.4。ソフトバンクから見た収支はWAR5.4と、かなり大きなリターンを得たトレードとなった。
4位は4.3を記録した中日だ。近年の中日のトレードで特に注目されたのが、阿部寿樹と京田陽太という二遊間の主力をそれぞれ楽天とDeNAに放出した2022年オフのトレードだろう。このとき、中日は対価としてそれぞれ涌井秀章と砂田毅樹を獲得した。
主力の放出には不安の声も大きかったが、獲得した砂田はWAR0.0だったものの涌井は1.6を記録。対して放出した阿部は0.4、京田は-0.4にとどまり、一連のトレードで中日の収支はWAR1.6となった。リスクのある決断ではあったが、結果としてみれば悪くないトレードだったのではないだろうか。