週刊MLBレポート2025(毎週木曜日更新)

99%の精度を誇るMLBの球種判別システムが混乱? 復活した大谷翔平の球種に起きている進化

丹羽政善

6月28日(※日時はすべて現地時間)、ロイヤルズ戦で投手復帰後3度目の先発登板となった大谷はメジャー自己最速164キロを記録した 【写真は共同】

理想に近づいている4シームの回転効率

 3度目の先発――2回、大学時代は二刀流選手として鳴らしたジャック・カグリオン(ロイヤルズ)に対して大谷翔平(ドジャース)が投じた3球目は、MLB公式ページの「GAMA DAY」ではシンカーと表示されたが、スプリットではないだろうか?

 以下、あの球の軌道データを今季投げたスプリットとシンカーのデータを比較してみる。

※変化量の単位はインチ。回転数は1分あたり。球速の単位はマイル 【参照:Baseball Savantのデータを元に筆者作成】

 これを見ると、確かに変化量は、ほぼシンカーのそれ。しかし、球速と回転数はスプリットに近い。

 本人に確認するのがベストだが、登板当日は、4シームの軌道の方が気になった。カグリオンに対して投げた初球など、吹き上がるようにして外角高めへ。空振りを奪った縦の変化量は18.12インチで、過去の平均は14.88インチなので、相手には浮き上がって見えたのではないか。

 ということは、ついに、大谷の4シームの回転効率(※)が85%を超えたのか? もしそうであるなら、その数値の改善を目指してきた大谷の進化を見極める上では、確認の優先順位が高い。

※球の軌道を決める一要素。いかに回転がそのボールに伝わっているかを表し、回転効率が100%(きれいなバックスピンがかかっている)なら、すべての回転がボールの変化量に寄与し、相手は浮き上がっていると錯覚する。50%なら、回転の持つ力が半分しか球の変化に寄与していない、ということになる。必然、縦の変化量も小さくなる。

 ということで、話題をシフトチェンジ。回転効率は翌日にならないと分からないので、縦の平均変化量を確認すると16.44インチと、過去と比べても高い。しかも、あの日のアームアングルは34度だったので、復帰後では一番高いとはいえ、まだ彼の平均よりは低い。

 その2つの数値から、回転効率が85%を超えているのでは?と仮説を立て、本人に答え合わせを求めると、「回転効率も、球速帯との比較が一番大事だと思う」と口にしてから、大谷は続けた。

「今日みたいに100マイル近く出ている中でも、浮力も悪くなかったですし、それなりのスピン効率だったと思うので、まだ、全部はチェックしてないですけど、まあ、進歩はしてるのかな」

“浮力”というインパクトのある言葉を使ったが、大谷の場合、力が入ると、球速は出ても回転効率が落ちる傾向がある。しかし、先ほど触れたカグリオンへの初球は99.9マイルだった。それでいて、“浮力”を感じられたことが、手応えにつながったか。

 この日の4シームの平均回転数は2487回転(分)。これは、シーズンごとの平均と比較してもはるかに高い。今季の4シームの平均回転数も2391回転となった。

大谷翔平の4シーム平均回転数の変化 【参照:Baseball Savant】

 ただ、いくら回転数が高くても、すでに説明したように、回転効率が低ければ、意味がない。果たして翌日、回転効率をBaseball Savantで確認すると、最初の2試合は79%だったが、通算では回転効率が83%(全26球)まで上がっていた。

 比率から、3試合目だけの回転効率を求めると88.5%だった。おそらく本人は90%を超えるような回転効率を目指しているので、かなり理想に近づいているのではないか。

 本人が「進歩はしてるのかな」と話したこともうなずける。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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